卒業研究のテーマは、最初から完成されたものとして見つかるとは限りません。
「すごいテーマを最初から思いつかなければいけない」「まだ知識がないから、自分には研究テーマを決められない」そう感じる人もいるかもしれません。
しかし、本研究室では、卒研テーマを最初から完成された答えとして探すのではなく、自分の相棒として育てていくものだと考えています。
RPGでいえば、研究テーマは「相棒モンスター」のような存在です。
最初から最強である必要はありません。大切なのは、いまの自分が扱える小さな問いから始め、そのテーマを読み、試し、失敗し、議論しながら、少しずつ強く育てていくことです。
授業課題と研究の違い
これまでの授業課題では、多くの場合、問いはすでに与えられていました。解くべき問題があり、正解や模範解答があり、そこにたどり着く力が求められます。
一方、研究では、まず自分で問いを見つけることが重要になります。
何がまだ十分に試されていないのか。どこに未解決の問題があるのか。既存の技術を、別の対象・条件・環境に適用したら何が起こるのか。
研究とは、誰かが用意した正解をなぞる活動ではありません。まだ答えのない問いを見つけ、自分の手で確かめていく活動です。
論文調査は、研究フィールドガイドをつくること
良い相棒テーマを見つけるためには、まず研究分野の世界を知る必要があります。そのために重要なのが、論文調査です。
論文を読むことは、RPGでいうと、テーマ図鑑を増やし、研究マップを広げることに近いです。
たくさん読むほど、どんなテーマが存在するのか、どんな手法が使われているのか、何がすでに分かっているのか、何がまだ十分に試されていないのか、どこに新しい問いの種があるのか、が見えてきます。
図鑑が少ない状態では、目の前のテーマが本当に面白いのか、すでに研究され尽くしているのか、これから育つ可能性があるのかを見分けることができません。
だから、卒研の初期段階では、論文調査はまず量も大切です。広く読む。たくさん読む。研究の世界を知る。その中から、自分が育てるべき相棒テーマを見つけていきます。
スキルはトレーナー力
相棒モンスターを育てるには、トレーナー自身の力も必要です。研究でも同じです。
プログラミング、データ解析、センサ処理、AIモデルの理解、実験設計、プロトタイピング、発表資料づくり。こうした基礎的な技術力が上がるほど、扱える研究テーマの幅は広がります。
最初から難しいテーマを自在に扱える必要はありません。まずは、いまの自分のスキルで扱える小さな問いから始めれば大丈夫です。
小さく試す。結果を見る。うまくいかなかった理由を考える。改善する。
この繰り返しの中で、自分のトレーナー力も、相棒テーマも一緒に強くなっていきます。
主体性とは、結果を持って相談すること
研究では主体性が重要です。ただし、主体性とは、一人で全部抱え込むことではありません。
本研究室で大切にしたい主体性は、自分で考え、小さく試し、結果を持って相談することです。
「どうすればよいですか?」だけではなく、「こう考えて、ここまで試しました。結果はこうでした。次にどちらへ進むべきでしょうか?」という形で相談できると、研究は大きく前に進みます。
研究テーマは、頭の中で悩んでいるだけでは育ちません。実装し、検証し、失敗し、記録し、議論することで、少しずつ強くなっていきます。
PIの知見はブースター
教員の役割は、完成されたテーマを一方的に渡すことではありません。
PIは、研究チームのヘッドコーチとして、主戦場を示し、問いの立て方や研究の方向性を一緒に磨きます。
教員の知見は、相棒テーマの成長を加速させるブースターです。
ただし、ブースターだけではテーマは育ちません。学生自身が論文を読み、手を動かし、小さく試し、失敗から学ぶことで、研究テーマは本当に自分の相棒になっていきます。
研究は一人旅ではない
研究テーマは、一人ひとりの相棒です。しかし、その相棒を育てる場所は一人旅ではありません。
読んだ論文、試した実装、失敗した条件、発表練習で得たコメント。それらを共有することで、個人の経験値はチームの資産になります。
本研究室では、個人で閉じる研究ではなく、組織としての相乗効果を大切にします。
自分の知見を共有する。仲間の研究にコメントする。失敗ログを残す。後輩が同じところで詰まらないように記録する。
こうした行動は、単なる雑用ではありません。研究者としての基礎体力です。
チームの知見が増えるほど、一人ひとりの相棒テーマも強くなります。
AI時代だからこそ、経験値に投資する
AIによって、情報収集や実装の一部はこれまでより速く進められるようになりました。
だからこそ、これからの研究者にとって重要になるのは、単に知識を持っていることだけではありません。
自分で問いを見つける経験。自分で試して失敗する経験。他者と議論して考えを磨く経験。研究室の外で発表し、フィードバックを受ける経験。世界の研究コミュニティに向けて、自分の成果を問う経験。
AI時代だからこそ、こうした経験値に積極的に投資していきます。
見つけて、試して、育てる
卒研テーマは、最初から完成されたものではありません。
小さな問いとして見つけ、論文で位置づけ、技術で試し、チームで磨き、時間をかけて育てていくものです。
見つけて、試して、育てる。仲間とともに、ワクワクする研究体験を世界へ。
それが、中村研での卒業研究の考え方です。